1/2ページ目 いつからだろう、 いつから捕まってしまったのだろう。 甘い、香りがする。 蜂蜜入りのホットミルクの香りだ。 「刹那。」 ミルクと同じくらい甘い、低くて甘い声が響く。 振り向けば、白い腕が伸びてくる。 目を閉じれば、頬に手が寄せられる。 黒革の手袋越しに体温を感じれば、 そうすれば、いつだってこの大人は、白くて長いその腕で、俺の身体を絡め取って、温かい胸の中に引き込んでしまう。 背中から肩にまわされる腕。 頭の上には彼の形の良い顎。 キャラメル色の跳ねた襟足が、 耳を掠めてゆく。 俺の身体は、四方八方彼に捕らえられている。 もう、逃げ出せない。 片腕だけで、こんなにもがんじがらめに捕らえられてしまった。 この美し過ぎる蜘蛛は、本当に器用だと思う。 温かくて厚い胸板に鼻をすり付けると、ふんわり甘い香りがした。 「甘い。」 口の中だけで呟くように出した言葉は、ちゃんと彼の耳に届いていたようだ。 頭の上で、僅かに笑う気配がした。 大気が、甘く震えた。 「それはさ、ほら。」 利き手じゃない方の手が掴むマグカップから、ふわふわと湯気がたつ。 「こいつのせいだろ。」 捕らえていた俺の身体をいったん離して、マグカップを手渡そうとする。 絡み付いていた温かい腕が、俺から解かれていく。 身体が自由にされていく。 俺とこの捕獲者との間に、空気の通り道ができる。 くっついていた身体を引き剥がされると、無性に寒く感じた。 寒い。 とても寒い。 普段は何ともないのに。 いったんこの温かさを知ってしまったら、もう手離すことは出来ない。 仕方ない。 俺が捕らえるしか、仕方ない。 俺は、短くてちっぽけな腕を精一杯伸ばした。 「っ!………刹那?」 この大人は、随分驚いているようだ。立派な肢体がビクリと跳ねる。 でも、止めない。 諦めるものか。 故郷では、戦わなければパンは得られなかった。 奪わなければ、水は飲めなかった。 走らなければ、命はなかった。 この熱源は、俺のものだ。離すものか。 両腕を必死で伸ばして、彼の背中を捕らえる。 彼と比べるとまだ細っこい、このちっぽけな身体全体を使って、彼を支配しなければ。 そうしなければ、俺は寒くて死んでしまう。 これは、俺にとって必要なもの。 離すものか。 諦めるものか。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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