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桃色の髪の乙女【過去拍手文】
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刹那が撃たれた。



……あの、刹那が!!?

自他共に認める最強無機物ロボ的存在の彼の負傷に、トレミーの面々は驚愕した。

だが、誰よりもショックを受けたのはフェルトだった。











「………俺はもう大丈夫だ。」


いつまでもメディカルルームから立ち去ろうとしないフェルトに、カプセルの寝台に横たわったまま刹那は弱々しく告げた。


「……でも、」

「……お前は、自分のやらなければいけないことをしろ。」

「……もう、全部終わらせた。」



クリス直伝のハッキング技術に加え、持ち前の勤勉さと要領の良さを発揮できるフェルトは、ブリッジの中でもひときわ優秀。

本気を出せば、トレミーの仕事なんてあっという間に片付けてしまう。

艦長スメラギからの信頼も厚い。

彼女が作業を終わらせたと言うのは、おそらく本当だろう。



「……だが、カプセルの中に居れば俺は問題ない。」

「分かってる。」



カプセルにしがみついて離れようとしない女の子。


「でも、刹那の横にずっと居たいの。」





静かながらも強い意志を含んだ声に、刹那はハッとした。

緩く開かれた大きな瞳は、大切な人を失うことの恐怖で揺れている。


「……すまない。」


怯えを滲ませたエメラルドが、今にも零れ落ちそうだ。


「本当に、すまない。」

「なん、で……。どうして、刹那が謝るの……。」


鈴のように声が震えている。


「……本当に、悪かった。」

「違う、刹那はなんにも悪くない。」


フェルトの表情の少ない綺麗な顔が、わずかに歪んだ。
急に幼く感じた。




………ああ。そうだった。
普段とても落ち着いているからつい忘れそうになるが、彼女はまだ18の女の子なのだ。

昔から子供じみた行動をロックオンにからかわれていた俺とは違い、彼女はいつだって冷静で、理性的で。
どんなに苦しい時でも周りの人に気を配り、自己を見失わなかった。

……それが、初恋の相手を亡くした時でさえ……。






刹那はカプセル越しに、震えながら涙を流すまいと耐える女の子を見上げた。

……フェルトのこと、自分と同じかそれよりも年上な気でいたが、彼女はまだ少女だ。
成人していない、自分よりも2つも年下の、女の子だ。

4年ぶりに会った時はあまりにも美しい女性になっていたから、すっかり忘れていた。

いや、昔から身体つきは大人っぽかったが……。






「フェルト、」


刹那は、泣くのを堪えて自分の言葉を待っている少女の名を、ありったけの気持ちを込めて呼んだ。



「心配、かけたな。」



途端にボロッと大粒の涙が零れてきて、パタパタとガラスの表面に落ちる。


「……あ…、」


彼女は慌てて目を擦るが、涙は余計に溢れるばかり。

彼女の涙なんて記憶に無い刹那は、どう対応して良いか分からず、茫然として見上げていた。


「……ごめんね、泣くつもりなんて、なかった、んだけど……。」


ヒクッと細い喉が動く。


「…だいじょうぶ…、わたしは、なんでも、ないの…。」


白い指先が、あっという間に濡れていく。


「…気にしないで……。刹那はゆっくり休んでね。」


嗚咽を噛み殺した彼女は、さっと立ち上がると、身を翻す。
負傷した刹那に余計な心配をかけさせたくないと思ったのだろうか、足早にメディカルルームから出ていこうとする。

鮮やかな桃色が、微重力の中でフワリと舞った。



「フェルトッ!!」


とっさに刹那は叫んでいた。








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