大学パロ

お泊まり編 初夜
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結局、刹那は母親が退院するまでは俺のマンションに泊まることになった。



刹那はとても遠慮していた。

が、俺のマンションの方が大学と病院が近い、という理由を盾に、俺は意見を押し切った。







病院を出た俺と刹那は、一旦刹那の家へ戻った。

刹那の着替えと勉強道具を取りに行くためだ。











俺が再びその低い敷居を跨ぐと、刹那は母親の寝ていた布団を片付けていた。


「すまない、ロックオン。すぐに用意をする。」

「ゆっくりでいいって。どうせ、俺、今日は暇だし。」



俺は狭いタタミの部屋に腰を下ろし、じっくりと刹那の家を見渡した。

さっきはバタバタしていて、ゆっくりと見る暇が無かったが、改めて見渡すと…………

       狭 い !!!!



間取りは、玄関の真横にある3畳分もない小さなダイニングキッチン。
それと、俺が座っている6畳の和室。

たったの、それだけ。







狭いせいもあってか、必要のないものは何一つ置かれていなかった。

いや、必要なものすら置かれていない。





まず、テレビが無い。
勿論、パソコンもゲーム機も無い。

タタミの部屋には、折りたたみ式のちゃぶ台と、びっしり本が並んだ本棚が一つ。

さらに、棚に入りきれなかった本が段ボール箱に丁寧に詰められ、きちんと重ねられている。

クローゼットの代わりに、押し入れの中に鉄パイプを通し、服を吊り下げている。


まるで、留学し始めた時に見学した江戸ミュージアムの日本家屋のようだ。






しかし、埃や汚れが全く無い。

刹那は几帳面だから、きっと家の管理や掃除は刹那がやっているんだろう。



「ロックオンの家に、アイロンはあるか?」

刹那が服をビニール袋に入れながら聞いてきた。


「……アイロンって……、服にかけるヤツ?」

「他にどんなアイロンがあるんだ?」

「いや、刹那が髪に使うわけはないよな……。」

「なぜ、髪にアイロンを使うんだ?」

「……まぁ、そういう人もいるんだよ。普通のアイロンならウチにあるぜ。使うか?」

「助かる。じゃあ、持って行かなくていいな。」

「……そんなに服のシワが気になるか?」

「ああ。母さんが、どんなに貧しくても身なりだけはちゃんとするように、って言っていた。」

「へぇ、それは良いことだな。刹那は自分でアイロンをかけてるのか?」

「ああ。アイロンと家事くらいが俺の仕事だ。母さんは俺がバイトするのを許さないから………。」


教科書をカバンに詰めながら、刹那がうつむく。

……この顔は、自分を責めている顔だ。

こいつは、自分の大学進学が母親に負担をかけていると思って、いつも苦しんでいるんだな……。





「良い、お母さんだな。」

俺がそう言うと、刹那は心の底から嬉しそうに微笑んだ。

俺が昨日初めて見た、あの笑顔だ。


俺は、刹那をこんな笑顔にさせる母親が、かなり羨ましかった。







「父さんが居なくなってから、母さんは独りで俺を育ててくれた。母さんは普段はすごく真面目なんだ……………、肉を目にした時以外は。」


刹那の顔がくもる。


「……だから、どうして昨日あんなにお酒を飲んだのか、分からない……。きっと、何か嫌なことがあったんだ。」

「……そうだな。お母さん、早く退院できるといいな。」




俺が努めて明るく言うと、刹那の顔がぱぁぁっと明るくなった。

こいつは本当に母親のことが好きなようだ。


俺は、少し刹那の母親に嫉妬した。

(男の嫉妬は見苦しいと言うことよ、と誰かが言っていた気がしたが。)














刹那の家には飾り気が全く無い。

写真一つ、置物一つ飾られていない。






ふと、俺は壁に錨で止めているクリアファイルに目が止まった。

……あれは、カレンダーだろうか?いや、雑誌?



近寄って見ると、それは俺の論文が掲載された学誌だった。

俺の論文のページが開かれて、丁寧にクリアファイルに入れられている。



初めて刹那に会った時も、刹那は俺の論文を読んだと言っていた。

けれど、まさか壁に飾ってくれているなんて……





「……刹那、これは……?」

「?……、っ!」


俺が尋ねると、刹那の顔がカアッと赤くなった。

俺もつられて赤面した。




「……あの論文、本当に凄いと思ったんだ……。」

赤くなった顔を俯かせて、もごもごと刹那が言い訳をする。


「俺も、こんなふうになりたいと思ったんだ。だから、その……、あんたは俺の目標だ。」





……この子は、なんて嬉しいことを言ってくれるのだろう。


俺は本当に嬉しくて、思わず顔がほころんだ。


「そっか。」

俺は、真っ赤になって俯く刹那の頭をぐしゃりと撫でた。

「嬉しいよ、刹那。ありがとう。」




刹那がちらりと俺を見上げて、またすぐに目をそらした。







薄暗い部屋に、春の夕日が少し差し込む。


さっきまで刹那の母親に嫉妬してモヤモヤしていた気持ちは、すっかり消えていた。








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