大学パロ

父と、母と、それからあの人
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ちょうどよい温かさのカフェオレを飲んだ刹那は、だいぶ目が覚めたようだ。
寝起きで悪かった顔色もずいぶん良くなってきた。


「今日マリナさんは夕方に退院するそうだ。授業終わったら、ゼミには参加せずに病院行こう。焼き肉はその帰りだ。」

簡単に1日のスケジュールを説明する。

「刹那、自分の荷物をまとめておけよ。焼き肉食った後、お前の家に直行するから。」

「……了解した。」

カップに目線を落としたまま、刹那はうなずいた。

より一層身体を密着させてくる。
もし刹那に猫耳が付いていたら、きっとしょんぼりと垂れていることだろう。


「……せーつな。そんなにくっつくなよ。帰したくなくなっちまうだろ?」

ちゃかすような口調で、寂しさを誤魔化す。
やっぱり、お互い同じ気持ちだというのは、俺の思い込みじゃないようだ。

「別に二度と会えなくなる訳じゃないんだし、……つーか、毎日ゼミで会えるんだし。な?」

「……分かっている。」

「よしよし。じゃ、昨日みたいにギリギリにならないように、とっとと朝飯食っちまうか。」

さあさあとリビングに追いたてる。

「先に顔洗っておいで。パン焼いておくから。」








朝食を済ませ、身支度を整える。

刹那が自分の荷物をまとめている間に、俺は弁当を2つ作った。





午前8時。
そろそろ登校の時間だ。――俺にとっては出勤だが。

家の戸締まりをして、靴を履く。
先にマンションの廊下に出て刹那が出てくるのを待っていると、刹那はくるりと後ろを向いた。

「お邪魔しました。」

誰もいない俺の部屋に、静かに頭を下げる。
その礼儀正しい姿に感心しながらも、小さな背中がますます小さく見えて、無性に切なく感じた。

見慣れたはずの俺の部屋が、ひどくガランとして見えた。

……ああ、今夜はこの部屋に独りで帰るのか。

そう考えると、憂鬱だった。












車で校門前に乗り付け、刹那だけを下ろす。

いつも通り研究室の鍵を開け、いつも通りコーヒーメーカーをセットし、いつも通りの研究を始めるが、いまいち気が乗らない。

ゼミ生用の資料を作成してみれば数値の入力ミスが10箇所以上あったし、プリントアウトしてみればコーヒーをこぼすし……。とにかく能率が上がらない。

あげくの果てに、一台云億円もする電子顕微鏡のパーツを、もう少しで床に落とすところだった。
重症だ。




……俺は、刹那と離れるのがこんなに寂しいのだろうか?

思った以上にダメージが大きくて、ため息ばかり吐いてしまう。

刹那と一緒に過ごしたのは、たったの2晩。

確かにいろいろあったし、刹那の事もたくさん知ることができて距離はグッと縮まったと思う。

でも、俺と刹那の関係は名目上、ただの「教師とゼミ生」。
それ以上にもそれ以下にも発展することはなかった。











「どうしたんスか?ロックオンらしくないっスよ。」

恋のお悩み相談で研究室に押しかけてきたリヒティに、逆に心配されてしまった。


「刹那のことで何かあったんスか?」

「……どうしてそうなる?」

「だって、ロックオンって刹那とおしゃべりした後はめちゃくちゃ実験のデータが良いじゃないスか。今日はその反動かな……、と思ったんスよ。」

先輩ヅラをしてコーヒーをすする平凡男が妙に癪に障る。
だが、言われていることは至極もっとも。
図星を突いているので言い返す言葉もない。

「お前、さっきから偉そうな顔してるけどさ。一応俺は助教授だぞ。呼び捨てで呼ぶな、『先生』とつけろ。『ストラトス先生』!!」

「急に何なんスか?刹那には呼び捨てで呼ばせてるくせにー!」

「刹那はいいの、あいつは特別。」

「うわ、出たっスね!相思相愛、このバカップル!」

「……バカップル…?」

リヒティは軽い気持ちでちゃかしただけなのだろうが、俺はやたらとその言葉が気になってしまった。



昨夜、はっきりと告白した。
だが、何故か「信じられない」という顔をされてしまった。


嫌われている訳じゃ………、ないよな?

コーヒーでびしょびしょになってしまったデスクを拭きながら、自問自答する。


……それははないはずだ。

嫌っている相手とご飯食べたり風呂入ったり、ましてや添い寝するほど刹那はお人好しじゃないだろ。

それに、「キスしたい。」と言った時、拒否はされなかった。――OKも貰えなかったけど。




……刹那は、本当のところは俺のことをどう思っているのだろう。

好きな人? 保護者? 教師? 目標?
それともただの、側に居ても良いと思える大人?



「お前、用が無いんならもう帰れ。」

「ええっ!?ひどいっスよ、そのあしらい方!」

「いいからとっとと帰れ。3限は授業入ってんだろ?」



邪険にグイグイと追い出してから、ハァッと一息つく。

……もし仮に刹那が俺のことを好きだとして、独り身のマリナさんに気を遣ってYESと言えないのだとしたら……。

俺にはどうすることもできない。
結局はエンドレス。


その日はとにかく仕事が手につかなくて、ぐるぐると刹那のことを考えていた。











――コンコン、

ノックの音でハッと我にかえる。

時計を見ると、もう4時過ぎ。

……ちょっと早いけど、刹那かな?

そろそろ授業が終わるころだ。
今からマリナさんの退院に付き添って、それから焼き肉へ直行。



しかし、開けた扉の向こうに居たのは刹那ではなかった。

ライトグリーンの髪を持つ若い男と、赤い髪で目付きの悪い男が立っていた。









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