■ あすか組

透けていった視線
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 最首の部屋。
 彼女の人望を示すように、常に誰かいると聞いていたけれど、私が行ったときはドアの外に馬場さんがいるだけだった。
 馬場さんは私の姿を見ると無言のままドアを開けてくれた。
 目が、中へ入るようにいっている。私が来ること、わかっていたようだった。
 部屋の中、ゆったりとした私服を着た最首はベットに座っていた。
 背後でドアの閉まる音が静かにした。
「やっぱり来たな、音符屋」
 最首の言葉に、私は笑って答えることが出来る。
「出塾が決まったから、あいさつに来たの。最首にはいろいろ世話かけちゃったし」
「世話なんてした覚えはないがな」
 私が外へ出られるように掛け合ってくれたのは最首なのに、彼女はそんな風に言った。
 何を考えて、最首がそうしたのか私には想像もつかない。
 ただの気まぐれってこともあるかも。
 けど、お礼を言うべきだと思ったから。
 顔を上げると、最首と目があった。
 彼女はかすかに苦笑している。
「そんな、勘ぐるなや」
「うん……」
 ドアのすぐ側に立ちっぱなしだった私を、最首は手招きで近寄るよう呼ぶ。
 手を伸ばせば届く距離まで。
「おまん、あすかのこと、好きか?」
「え……?」
 突然の問いに私の思考は停止した。
 再び思考が流れ出したときには、ベットの上で最首に押さえ込まれていた。
 手を捕まれて引かれ、ベットの上に倒されて。
 うまく押さえ込まれていてまったく身動きできない。
 絶対に、私が最首に勝てることなんてないから、抵抗する気なんてないけれど。
 そのままじっと彼女は私を見つめてた。
「…好き、だよ?」
 たぶん最首は私の答えをわかってて聞いた。
 でも、答えるのを求められているのがわかったから、答えた。
 この言葉を口に出すのは、なんか緊張する。
 そして、とぎれとぎれになってしまった。
 最首は一瞬笑みを浮かべた後、何か企んでいるような顔つきになった。
 たぶん、私が外へ出られることと関係があるんだろう、なあ。
「おまん、外へ出たらあすかに会いに行くじゃろ?」
「うん」
「そんときに、ちくと頼みたいことがあるんじゃ」
 最首が私に頼みなんて、不思議な感じだ。
 最首のためなら何でもやるって人はたくさんいるのに。
 でも、そうやって言うってことは、私はそういう人たちとは区別されて見られてるって言うことだろう。
 そう思ったけれど、確かめたくて聞く。
「私も最首のコマになるの?」
「おまんはそがいタマじゃなかろ?」
 最首は苦笑して言う。
 直接的な答えじゃないけれど、私の考えが合っていたことを表していたから。
「あすかに不利にならない?」
「あすかを有利にしたいんじゃ。今回はまだ、あすかも全体をつかみ切れてないようじゃから、な」
「なら、いいよ」
「詳しいこと聞かなくてもいいんか?」
「あすかに不利にならないんでしょ?」
 私は最首の『頼み』を引き受けた。
 何をすればいいかもわからないままに。
 だけど、
「これで、貸し借りはなしだから、ね」
 私を蘭塾から出られるように掛け合ってくれたのは。
「わかっちゅう」
 そういった最首の笑顔は、とても綺麗だった。
 今まで見たことのなかった彼女の表情に私は見とれていた。
 そんな私に気付いて、最首の笑顔はもっと綺麗になった。

「最首?」
 私を押さえ込んでいた手が離れた。
 けど、解放されたんじゃなく、その手は、私の首筋から胸へ触れていく。
 見つめられて、最首の欲望がわかってしまった。
「私を、抱くの……?」
 馬場さんがドアの外にいるのに。
「嫌か?」
「……嫌じゃ、ない」
 と思う。
 不思議なことに。
 抵抗する気なんか、初めからなくしてるし。
「けど……」
「けど?」
 ドアの外が気になる。
 それを言葉にしないで視線だけを最首からドアへ移した。
「細かいことは気にするな」
 細かいことじゃないのに。
 それ以上の言葉を言わせないように、最首の手が服の下へ入ってくる。
 私はおとなしく目を閉じた。
 唇が触れる。
 キス。
 私の素肌に、彼女の手が触れる。
 全身でそれを感じて、私はすべてを最首に明け渡した。


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