■ あすか組

heat side S
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 声が出なかった。
 幾分か体温も上がっている。
 それに、体もだるい。
 自分の体調の悪さをそう自覚した。


 腕に抱く最首を揺する。
 声が出ないため、そうやって起こすしかなかった。
「ん……」
 わずかな刺激で目を覚ました最首は、腕をついて半身を起こす。
 そのまま私の上に覆い被さるようにして、口付けようとした。
 あわててそれを止める。
 不満そうに、強請るように最首は私の目を覗き込む。
『最首』
 声を出そうとすると喉が痛い。
 だから唇だけを、彼女の名前に形作る。
 それに目を覗き込む意味が変わった。
「目が潤んどるな」
 片手で体を支え、もう片方の手が額に伸ばされる。
 冷たい。
 気持ちよくて、私は目を閉じる。
「熱があるの。待っちょれよ」
 そういって最首はベットから降りた。
 体温が遠ざかる。
 体の重みも。
 開けていることがつらくなってしまった目をかすかに開けて、最首のいる方を見る。
 すでにドアを開けて出て行くところだった。
 あっという間に視界からいなくなる。
 ふと寂しくなってしまった自分を笑うように、顔がゆがむ。
 大きく息を吐き出して、頭の中のすべてを追い払うと再び目を閉じた。


 ひやりとした感触が心地よかった。
 それに意識が浮上する。
 いつの間にか眠っていたらしい。
「気分はどうじゃ?」
 傍らから聞き慣れた声がした。
 最首が戻ってきていた。
 唇を動かして、大丈夫だと伝える。
 それを読みとった最首は苦笑を浮かべた。
「大丈夫じゃないじゃろ、おまんが起きあがれんくらいじゃ」
 一度立ち上がり、手に盆を持って戻ってくる。
「薬飲んで今日は寝とき。その前になんか食えるか?」
 盆に乗ってるのは粥と薬、それに水だった。
 食欲などないが、いつまでも寝ている気もない。
 早く治そうと無理にでも食べた方がいい。
 そう思い体を起こそうとすると、最首が手を背に当て支えてくれる。
 体に力が入らない。
 何とか寄りかかりながら起きあがると、スプーンを差し出される。
「ほら」
 スプーンには粥がすくい取られている。
 食べさせてくれるらしい。
 手を動かす気力もないので、そのまま口を開ける。
 少しだけ温かい。
 冷めかけている。
 一口飲み込んだだけで、吐き気がした。
 自分で思っているよりも悪いということか。
 再び差し出されたスプーンを避け、拒絶する。
「食べんと、よくならんぜよ」
 それは、わかってる。
 でも食べられない。
 ため息が聞こえてくる。
「薬だけでも飲めんか?」
 そう聞きながらも私の様子から、自力では無理だと判断したのだろう。
 薬を私の口に放り込むと、口移しで水を与えられた。
「ん……」
 喉に薬の固形物が通っていく感覚がある。
 痛い。
 その間も口付けられたまま。
 水を与えるだけにしては長い。
 そんな風に考えていたら舌が入ってきた。
 好き勝手に快楽を生む動きは、熱のせいだけじゃなく意識を朦朧とさせる。
 そのまま体を横たえられる。
 頭と首に先程も感じていた冷たい感触がある。
 水枕だ。
 与えられる快楽から逃れようと動いたとき、耳元から水音が聞こえその正体が分かった。
 唇が離れる。
 私は大きく息を付いた。
 そこへ手が伸びてきて髪を梳く。
 やさしく、何度も。
 それを感じながら、いつの間にか眠りに落ちていた。


 気が付けば朝。
 丸一日近く眠っていたようだ。
 熱は下がっていた。
 声も出る。
 何もかも普段通りだった。
 腕に抱く最首も。
「今度はおまんが風邪を引くかや……?」
 眠る最首を起こさないように、そっと手を伸ばした。


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