1/3ページ目 山間の避暑地に来て二日目、ヤンは暑苦しさで目が覚めた。隣ではラインハルトがいつものように寝ているが、やはり暑いようで寝返りを何度もうっている。 どうやら空調がきいていないようだった。 カーテンからは陽の光が漏れていることから、もう夜は明けているのだろう。 とはいえ、夏の夜明けは早い。ラインハルトを起こしてそのことを言うべきかヤンは迷った。 だが起こすかどうか決めるよりも前に、ラインハルトは目を覚ましてしまった。 「どうした、ヤン?」 ヤンが起きた気配で起きてしまったようだった。 「まだ起きるには早い時間だろう? 目が覚めてしまったのか?」 「はい。なんだか暑くありませんか?」 「そういわれると、随分汗をかいているようだな」 ラインハルトは起きあがると、サイドテーブルに置かれているベルへ手を伸ばす。 ベルの音で、ついてきている侍従が素早く入ってきた。 「お呼びでしょうか、陛下」 「空調の調子でも悪いのか?」 「はい、申し訳ありません。明け方から壊れてしまったようでして。こんな土地柄ですから、修理にも時間がかかってしまうとのことです」 本当に申し訳なさそうに言う侍従に、側で見ていたヤンの方が申し訳なくなってきてしまう。 「まあ、たまにはこんなのもいいかもしれないな」 せっかくだからと、このまま起き出すことになった。 ヤンは正直なところまだ寝ていたかったが、この暑さで寝直すのは無理そうであきらめた。 「ヤン、川に行くぞ」 半袖のシャツというめずらしい出で立ちで、ヤンを外へと誘う。ここに来てまで本を手放そうとしないヤンを、ラインハルトは無理矢理外に連れだした。 「エミール、キスリング、ふたりとも行くぞ」 ラインハルトはヤンに麦わら帽子をかぶせると、ふたりを連れて歩き出した。 川辺に座り、ヤンは裸足になった足を水の中に浸している。そうしていると涼しい風が吹くこともあってか存外涼しい。 「どうだ、ヤン。来てよかっただろ?」 「そうですね」 ラインハルトはというと、ひとしきり水遊びを楽しんだ後、ナイフを長い棒へとくくりつけている。 「それで何をなさるのですか?」 その手元をエミールは興味深そうに覗き込んでいる。 「さっき魚を見つけたからな。これで捕まえて焼いて食べようと思ってな」 銛の代わりにする気らしい。できたものをもって、ラインハルトは再び川の中に入っていく。 「キスリング、火をおこしておいてくれよ」 「はいっ」 キスリングは反射的に返事をした。その後心配そうな顔をしつつも火をおこし始めた。 「ヤン閣下、ここの魚は食べても大丈夫なのでしょうか?」 「私に聞かないでくれるかな」 専門外だよそんなこと、といいながらヤンは魚を捕らえようとしているラインハルトをおもしろそうに眺めていた。 「本当に、子供みたいだよねぇ、陛下は」 「そうですね」 独り言のように呟かれた言葉に、キスリングは律儀に答えを返す。 「あんな風な御様子を、私達臣下には決して見せなかった方ですから、はじめは驚いたものですけど、衣まではああいった陛下の方が自然な御姿なのかな、と思います」 「キスリング准将だからこその言葉だろうね、それは」 その言葉に微かに首を傾げることで疑問を投げかけると、ヤンは薄く笑みを浮かべた。 「帝国はもちろんだけど、同盟にも陛下は完璧な人間だと思いこんでいるところが多大にあるからね。まあ、制度からいってもそう思わせたほうがいいわけだけど。そんな人たちにとって、今私達がみている陛下は否定したい部分だろうね」 人は自分たちにとって都合のいいものしか信じたくないものだから、と言葉を繋ぐ。 ヤンの言葉の中に自分でも漠然と思っていたことを明確な言葉として認めたキスリングは、ヤンに向ける眼差しの中に改めて尊敬の気持ちを混ぜていた。 「とりあえず、四匹捕ったぞ」 ラインハルトとエミールが川からあがってくる。 「エミールも一匹捕ったんだぞ」 満面に笑みを浮かべたラインハルトは、来ている服をだいぶ濡らしていた。エミールも同じように濡れている。 「なんだ、キスリング。全然火が出ていないじゃないか」 「すみません」 キスリングが焦って火を付ける。 その間に、ラインハルトとエミールは木の枝を細く削って串代わりにし、魚に刺していく。魚を刺した串を火にかざすように地面に突き刺してしばらくすると、食欲をそそるにおいがしてくる。 「おいしそうですねぇ」 「まだ駄目だぞ、ヤン。きちんと焼かないと」 「わかっていますよ」 ラインハルトの真剣な顔に、ヤンはにこにこと答えた。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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