■ 銀英伝【ライヤン】

恋文配達人
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「では、ヤンが余に愛していると言えば、共に暮らしても良いな?」
 ラインハルトは了承の言葉も待たずに宣言するように言うと、立ち上がって会議室を出て行ってしまった。
 後に残されたのは重い沈黙だけだった。


 閣議を飛び出したラインハルトはその足でヤンの家へやって来た。皇宮の敷地内いえ、外れに位置しているそこは華やかさとは無縁の静けさの中にある。
「いらっしゃい、ラインハルト」
 執事に案内されて居間へ入ると、ヤンが笑顔で迎えてくれた。まだ湯気の立つ紅茶のカップが目の前にある。そして読みかけの本。ヤンの日常は相変わらずそれで埋められていて、ラインハルトにとっては何故退屈しないのか不思議に思われる。だがそんなヤンだから、ここに居てくれるのだとは良くわかっていた。
 ラインハルトはテーブルを回り込むとヤンの隣に座り、手を伸ばすと無言のまま抱きしめる。
「ラインハルト?」
「俺のこと、好きか?」
 囁かれるように聞かれて、ヤンは苦笑を浮かべて抱きしめ返した。
「どうしたんだい、改めてそんなこと」
「俺ばっかり言って、ヤンは言ってくれないから確かめたくなった」
 体まで重ねることに抵抗しないから、そんな大切な言葉を言ってくれてなかったことに気づけなかった。浮かれすぎていたのだ。
「そうだったかな」
 これだけ言ってもとぼけるヤンに、ラインハルトは体を離した。手は肩に残し、至近距離の真っ正面から視線を合わせて見つめる。真剣な表情にヤンも引き込まれた。
「好きだ、ヤン・ウェンリー。愛してる」
「うん……」
 言い含めるような告白だった。
 それにヤンはわずかに頬を染め、顔を俯かせた。
「本当にわかっているのか?」
 ラインハルトはヤンの頬に手を添え上を向かせると、その瞳を覗き込んだ。するとヤンはわずかに微笑みを浮かべる。
「わかってるよ。だからこうするんだろう?」
 ヤンは目を閉じると、その顔をラインハルトへ近づけた。唇が触れあう。ラインハルトはその感触を受け止め、味わっていた。
「ね、ラインハルト」
「卿はずるいな」
 上目遣いで覗き込むヤンに、ラインハルトは苦々しく呟いた。望めば望むほど応えてくれない気がする。
 なのにヤンの思惑に乗せられてしまうようだ。
 ラインハルトは今度は自分から口付けると、それを深いものへ変えていく。その間に服を脱がしていった。
「ベットへ行きたい……」
「駄目だ。煽ったのは卿だろ」
 唇が離れた隙の要求を一瞬で否定すると、言えないようにまた唇を塞いでしまう。
「ぁ……んっ……」
 力が抜けたヤンを、ラインハルトは自分の膝に座らせた。支えるように腕を回し、その指先で首筋から耳をくすぐるように滑らせる。ヤンの体が跳ね、呼吸に甘い吐息が混じり始めた。
「ヤン・ウェンリー……」
 耳元で名前を囁き、そのまま耳に舌を這わせる。
 ラインハルトの手は下肢へと伸ばされていた。立ち上がりかけているものにかすかに触れる。
「う、ぁ……」
「好き、だ。言ってくれないか? でないとこのままにしてやろうか」
 触れていた所から離し、奥へと滑らせる。かすかに濡れている指先を窄みへ差し込んでいく。
「はっ……そう、く、るのかい……」
 感じ始めた快楽を押さえようとして、ヤンの声は途切れ途切れになっていた。
「いいよ、そ、れなら……」
 ヤンは微笑みを浮かべると、貪るように口付けた。
「ん……」
 不安定な体を支えるためにしがみついていた手を片方離し、ラインハルトの下肢を探る。すでに硬くなっているものを取り出すと、腰を浮かせて自ら迎え入れようとした。
「……ヤンっ」
 今まで一度もしたことがないヤンの行動に、ラインハルトは驚く。動き始めたヤンのその姿に目を奪われ、与えられる快楽に夢中になっていた。
 自分が言った言葉も忘れるほどに。


 ヤンが目覚めたのは、陽も高くなった昼前だった。もちろんラインハルトの姿はすでにない。広いベットで体を伸ばすと体中がきしみをあげるように痛んだ。
「う……」
 体の力を抜くと起き上がろうとして、その怠さに再びベットへ身を投げ出す。どうせやらなければならないことは何もないと、ヤンは起きることを止め微睡み始めた。
 完全に寝入ることなくうとうとしているところへ、部屋の扉がノックされる。
「起きていらっしゃいますか」
「ん……起きるよ。何かあったのかい?」
「軍務尚書閣下からヴィジホンが入っております」
 その言葉にヤンは慌てて起き上がり、体の痛みに顔をしかめた。
「わかった、出るよ」
 放り投げられていたシャツだけを身につけ、サイドテーブルにある端末を手にする。通話を開くと映ったのはヤンと対照的にきっちりと軍服を着込んだオーベルシュタインの姿だった。
「お待たせいたしました」
「その様子だとまだ休んでいたようですね」
「まあ、そうです……」
 ばつが悪そうに言うヤンだったが、オーベルシュタインは全く気にしていないようだった。単に事実を確認したかったのだろう。
「あの、今日は……」
「お話ししておきたいことがあります」
 一息おいてオーベルシュタインは話し出した。
「昨日の閣議で出た話ですが、陛下はヤン提督とお二人で暮らしたいとのこと。条件としまして、皆の前でヤン提督が陛下に告白したら、ということになりました」
「は……?」
 ヤンはオーベルシュタインの言葉の意味を理解すると、ぽかんと口を開いた。
「そう言うことなので陛下がいろいろ行動を起こされると思いますので、よろしくお願いします」
「何を……というか、何故そんな話しになったんですか。第一、皆さん反対してくれなかったのですか……?」
 衝撃から立ち上がると、ヤンはため息を吐いた。帝国の閣議はいったいどうなっているのか。そんなことを認めるなんて。
「痛いところに気付かされてしまったからじゃないですか」
「何かラインハルトに言ったんですね」
「陛下の我が侭に振り回されているだけで、ヤン提督は本当に陛下を好きなんでしょうかと尋ねました」
 元凶はオーベルシュタインだろうと決めつけたヤンに、悪びれずに答える。それを聞いて、ヤンはため息を繰り返した。
 そんなこと、言わなくて良いのに。
 だいたいラインハルトを煽るだけだと言うことを、わからない訳ではないだろうに。
「陛下にはかまをかけてみただけなのですが、そのご様子だと合っているので?」
「違いますよ」
 ヤンは直ぐさま否定するが、その無表情さの所為で空虚に聞こえてしまう。言葉として伝え切れていないのは確かだという自覚がある。
「それで、私にどうして欲しいのですか」
「お任せいたします」
「なぜ?」
「本来なら私が口を挟む問題ではありません。ですが現状のままですと周囲への影響が大きすぎます」
 少しでも隠そうとしてくれるのなら違っていたのだろうが、まるでその気はないらしい。逆に自慢したいくらいなようだ。
 もう少しでも表立たないようにしたい。
「まあ、取り敢えず了承しておきますよ」
 考えるのも面倒になりそう言うと、ヤンは通信を切った。そのままベットに身を投げ出して天井を仰ぐ。
 じっくり考えなくてはならないようだった。


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