1/1ページ目 一度だけ、キスをした。 触れるだけの。 二度目のキスは、いつになるだろう……。 止めたのは、自分だった。 でも本当は、自分の方が待ちわびてるかもしれない。 その、待ちわびるキスが、いつの間にか自分の中でキスへの思いを変えていた。 ヤンは久しぶりに皇宮へ赴いて、久しぶりにラインハルトの姿を見かけた。だが、ラインハルトはヤンに気付くことはなかったようだった。 瞬く間に、ラインハルトは成長している。成長期だから、というだけではない。 ラインハルトを見かけるたびに、ヤンはそれを楽しみにしていた。 それと同時に、自分の変わらなさも感じてはいたけれど。 その夜の夢。 思い出すこともなかった、過去の一瞬。 人の腕の中で、それを暖かく感じて。 でもそれも、一瞬のことで。 唇に触れたのは、彼の唇。 下唇から上唇へ順に吸われ、彼の唇はヤンのそれから離れていった。 何が起こるかわからなかったヤンの瞳は見開かれたまま、離れていく彼の顔を焦点の合わないまま、見ていた。 ヤンの肩にまわされていた彼の腕も離れていく。 「ヤン……」 名前を呼ばれるまで、ヤンは指一本動かせないほど、体を硬くさせたままだった。 名を呼ばれて、顔ごと視線を下へと移す。 「好きだ、ヤン……」 そう言ってヤンの頬に手を当て、上を向けさせ再び口付けようとする彼の胸を、ヤンは思い切り押して逃れる。 「……何も、感じないんだ」 ヤンは自分の鼓動が早くなっていることを自覚していた。 気を抜けば、鼓動の響きが、手の震えとなって現れそうにそうだった。 それなのに。 「何も、感じない……」 嫌悪も悦びも感じない。 ただ、心が空虚だった。 目覚めたら、苦しい気持ちが心に満ちていた。 自分の頬が濡れているのを感じてヤンはぽつりと、つぶやいた。 「悲しかったのかな……」 あのとき、心が何も感じなかった訳。 ラインハルトと出会って、それを感じ取ったのかもしれない。 好きでもない人と交わすキスが、悲しい……。 ラインハルトと交わした、たった一度だけの、触れるだけのキス。 たぶん、ラインハルトを見かけて、そのときのことを無意識に思っていた。 だから思い出してしまったのかもしれない。 心に何もないのは同じ。 でも。 その暖かさが、違う。 言葉で表す必要がない、心を充たした感情。 ラインハルトと交わした、たった一度の、触れるだけのキス。 自分の中にあった何かを変えたもの。 二度目のキスは、自分が止めた。 今は、それを少し後悔しているかもしれない。 でも、それを待っている時間でさえ、ヤンの心を暖かく充たしていた。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
w友達に教えるw [編集] 無料ホームページ作成は@peps! |