1/10ページ目 『2度目のキス』 入学してすぐ、学校中を歩き回った。人気がなくて、授業をサボるのにもってこいの場所はないか、とね。なにせ近いからという理由だけで選んだ高校は(もちろん成績も関係あったけど)、問題児が集まるような学校で、まともに授業に出ようなんて奴はほとんどいない。けど学校に来てないって訳でもないから、自然人気がないところには先着で誰かがいることになる。で、まだ未開拓の場所を探した。無事に見つけられたのはラッキーだった、はずなんだけど。 ここを見つけたのは俺だけじゃなかったらしい。時々先着がいる。いつも同じ奴だから他には知られてないんだろうが、ひとりになりたくて来るから、そんなときは回れ右、だ。なのに今日は目があってしまった。 「来いよ、マコト」 いきなり呼び捨て。なんで俺の名前を知ってるんだか。ま、俺もこいつのことは知ってるけどさ。同じ一年、違うクラスの有名人。噂では入学早々に上級生とケンカしたって。それも勝ったらしい。確か名前は安藤崇。 「俺がいるといつも引き返してくな」 「気が付いていたのか」 「だが俺が怖いから、ではないだろう?」 「なんでお前が怖いんだ、タカシ」 噂は本当で、目撃者がいたってとこかな。だからって俺に害があるわけではなしに、怖がる必要なんてないはずだ。 タカシは軽い笑顔を見せると寝転がって目を閉じた。もう俺がいることも意識には無いようだった。なんだかその姿に安心する。人がいてもひとりになれるってことのようで。 俺も寝転がって目を閉じた。少し離れた場所で。 居合わせたからって無理に話すこともない、気が向いて話題があれば少しだけ言葉を交わす。そんな距離感は俺にあっているらしい。俺たちに、かな。 試験が終わってもうすぐ夏休みという生徒だけじゃなく先生もだれているという日、授業中だというのになんだか騒がしかった。例によってサボっていた俺も、その騒々しさに現場をのぞき込んだ。屋上から校庭を見下ろしたってだけなんだけど。 校庭ではケンカの真っ最中。騒がしいわけ。一人対十人以上とその他大勢の野次馬連中。一人の方はタカシだった。 しばらく眺めていれば、勝敗はわかってしまった。あれくらいの連中じゃ、いくら束になったってタカシには勝てない。それでも野次馬たちは楽しめるんだろうが、俺はつまらなくなってしまった。 日陰に戻って昼寝続行。 とはいえ騒がしくて寝られやしない。目を閉じて喧噪に耳を傾け、成り行きを思い描いていた。 チャイムが鳴ると、それも収束に向かった。授業の終わりと同じにケンカも終わりにするのかね。 やっと眠れるかな、と思えば人の気配が近づいてくる。 「おつかれ」 起きあがって迎えてやれば、タカシはどさりと寝ころんだ。さすがにあれだけの人数だと疲れるのだろう、呼吸が乱れている。それが収まる頃には眠りに落ちていた。結局一言も発しなかったタカシはあまりにもらしくて。俺も当初の予定通り、昼寝を続けることにする。予定外なのはタカシも一緒だってことかな。 気持ちのいい眠りだった。ゆらゆらと温泉で浮かんでるみたいな。 それなのにいつからか息が苦しい。浮かんでいたはずなのに、沈んでいくみたいだ。濡れた感触がする。 「そろそろ起きろ。出られなくなるぞ」 タカシの声で起こされた。空の色に赤い色が混じり始めている。夕方まで寝てしまったようだった。校舎の鍵が閉められる前には出なくては。 「起こしてくれてありがと」 わざわざなのか、それともタカシも直前まで寝ていたのかわからないけれど。返答が無いのは気にしない。起きあがって大きく伸びをすると、一気に体が目覚めた。 「なんか、変な夢みたかも」 「へぇ」 なんで独り言には反応があるんだか、わかんないよなぁ。 振り向いてわざわざ見せてくれた笑みには、なんか裏がありそうなのは気のせいだったろうか。 [指定ページを開く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
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